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時代の岐路――歴史的な円安と積極財政、その狭間で中小企業経営者の私は、今、引退すべきなのか?

執筆者の写真: IKIGAI NOW
IKIGAI NOW
8月11日
読了時間: 14分

更新日:9月7日


日付:2026/08/11

ここ半年、円相場と日本の財政政策をめぐる動きは、国内外の経済メディアで大きく取り上げられてきました。

『週刊東洋経済』2026年4月4日号は、「責任ある積極財政は日本経済を、強く豊かにするのか。」と題した特集を組み、高市政権の積極財政が金利上昇や円安を招くリスクについて検証しています。

インフレ圧力が残るなかで進む円安、そして国債利回りの上昇――。

いま日本経済は、財政による景気の下支えと、物価・金利・為替の安定をいかに両立させるかという、極めて難しい局面を迎えています。

IN財経編集部では、マクロ経済の視点から、複雑に絡み合うこれらの問題を読み解いていきます。

そして、これから引退を考える中小企業経営者にとって、この大きな時代の転換点をどう捉え、どのように向き合っていくべきなのかを考えます。


円安・金融政策をめぐる2026年の主要動向


経済分野

主な動き・指標

具体的なデータ

記事でのポイント

為替市場

歴史的な円安

2026年7月1日、一時1ドル=162円台後半まで下落。1986年12月以来、約39年半ぶりの円安水準

実質実効為替レートや購買力平価ベースの指標からも、円の割安感が鮮明に

政府の為替対応

日米協調による円買い介入

2026年7月31日、日本財務省が米国財務省と協調して円買い介入を実施

片山財務相は、今後のさらなる協調介入も辞さない姿勢を表明

金融政策

日本銀行による利上げ

2026年6月、政策金利を1.0%程度へ引き上げ。約31年ぶりの高水準

物価動向次第では、2026年後半に追加利上げが行われるとの見方も

企業への影響

「円安倒産」の増加

2026年上半期の円安関連倒産は45件、前年同期比32.3%増

輸入コストの上昇を十分に価格転嫁できない中小・零細企業への圧力が強まっている


1.歴史的な円安――「高市トレード」から日米協調介入へ


2025年10月、高市早苗氏が自民党総裁に選出され、その後首相に就任すると、金融市場は大きく反応しました。

株高、長期金利の上昇、そして円安が同時に進む、いわゆる「高市トレード」です。

背景にあったのは、高市氏が掲げる「責任ある積極財政」への期待と警戒でした。

積極的な財政出動が景気や企業収益を押し上げるとの期待が株価を支える一方、財政悪化やインフレへの懸念、さらに金融政策の正常化が緩やかになるとの見方が、円売り圧力につながりました。

その後も円安基調は続き、2026年7月1日には一時1ドル=162円84銭まで下落。1986年12月以来、約39年半ぶりの円安水準となりました。


名目為替レートだけではありません。

物価変動や貿易構造を反映した実質実効為替レートで見ても、円は歴史的に低い水準にあります。また、購買力平価を簡易的に比較する「ビッグマック指数」などでも、円の割安感が長く指摘されてきました。

こうした歴史的な円安に対し、ついに日米両国が動きました。

2026年7月末、日本は米国と協調して円買い・ドル売りの為替介入を実施。米国が日本と歩調を合わせて円買い介入に動くのは、約30年ぶりという異例の対応でした。

市場では、日本側の円買い介入が数百億ドル規模に達した可能性があるとの推計も出ています。

介入を受けて円は一時大きく反発し、「1ドル=160円台」が政府・市場双方にとって強く意識される局面となりました。

しかし、問題はここからです。



為替介入は円安のスピードを抑え、時間を稼ぐことはできても、円安を生み出している構造そのものを変えるものではありません。

『週刊ダイヤモンド』は、7月末から8月初旬にかけて協調介入によって円が反発した局面について、投資家にとってはむしろ、円で資金を調達してドルなどの高金利通貨を買う「円キャリートレード」を再び構築する機会にもなり得ると分析しています。


その背景にあるのが、依然として残る日米の金利差です。

日本銀行は2026年6月、政策金利を1.0%程度まで引き上げました。一方、米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利は3.50~3.75%。

かつてほどではないとはいえ、日米間にはなお一定の金利差があります。

もちろん、為替相場を決めるのは金利差だけではありません。財政への信認、インフレ率、経常収支、海外投資、地政学リスクなど、さまざまな要因が複雑に絡み合います。

それでも、日米の金利差が残る限り、円で資金を調達し、より高い金利が得られる通貨や資産へ資金を移そうとするインセンティブは残ります。

「介入すれば円安は終わる」ほど、現在の為替市場は単純ではないのです。


2.高市政権の「責任ある積極財政」――インフレと長期金利、二つの試練

では、なぜこれほど円が売られているのでしょうか。

金利差と並んで市場が注視しているのが、高市政権の掲げる「責任ある積極財政」です。

円安が日本経済に現れた一つの「症状」だとすれば、積極財政をめぐる市場の期待と警戒は、その背景を理解するうえで無視できない要素の一つです。

2025年10月、高市氏が自民党総裁に選出されると、金融市場では財政拡張への期待が高まる一方、国債増発や財政規律の緩みに対する警戒も強まりました。

その影響が最も鮮明に表れたのが、国債市場です。

2026年1月、高市首相が衆議院解散の方針を示すとともに、食料品の消費税率を2年間ゼロとする方針を打ち出したことで、市場では財源をめぐる懸念が一気に高まりました。

減税そのものは家計の負担を軽減します。

しかし、市場が問うのは、

「その財源をどこから確保するのか」

という一点です。


新たな国債発行に依存しない方針が示されても、具体的な財源が明確でなければ、投資家は将来的な国債増発の可能性を織り込みます。


こうした財政拡張への警戒から日本国債は売られ、2026年1月には10年物国債利回りが約27年ぶりの高水準へ上昇。超長期国債にも売りが広がり、日本の財政運営に対する市場の視線が一段と厳しくなりました。

実は、こうしたリスクは高市政権発足直後から指摘されていました。

野村総合研究所のエコノミスト、木内登英氏は2025年11月、高市政権の経済対策について、財政支出による景気押し上げ効果を認める一方、積極財政が円安や物価高を助長すれば、国民生活にとって逆風になり得ると指摘しています。

ここに、高市政権の経済政策が抱える難しさがあります。

財政支出を増やせば、短期的には景気を下支えできます。

しかし、その政策が市場から「財政規律の後退」と受け止められれば、国債が売られ、長期金利が上昇する可能性があります。


さらに、財政政策や金融政策をめぐる市場の見方が円安方向に働けば、エネルギーや原材料、食料などの輸入価格が上昇し、国内のインフレ圧力を再び強めることにもなります。

つまり、市場では二つの経路が意識されています。

積極財政→ 財政規律の緩みへの警戒→ 国債売り→ 長期金利の上昇その一方で、

積極財政への警戒や金融政策をめぐる思惑→ 円安圧力→ 輸入物価の上昇→ インフレ圧力の強まりという経路です。


もちろん、この流れが必ず一直線に進むわけではありません。

財政支出によって民間投資や生産性が高まり、経済成長率が上昇すれば、税収増加を通じて財政の持続可能性が改善する可能性もあります。

それこそが、高市政権が掲げる「責任ある積極財政」の基本的な考え方です。

だからこそ、現在の日本経済を単純に「積極財政=悪」と捉えるのは適切ではありません。


本当の論点は、

積極財政によって生み出される「成長」が、円安・インフレ・金利上昇という「コスト」を上回ることができるのか。

そこにあります。



3.二つの問題が交錯する――財政・為替・インフレの「三角難題」

財政問題と円安問題は、それぞれ独立して存在しているわけではありません。

財政政策、金融政策、為替、物価、そして市場心理が互いに影響し合い、日本経済を複雑なジレンマへと導いています。


ただし、

「財政拡張 → 日本の金利上昇 → 日米金利差拡大 → 円安」

という単純な一本の因果関係で捉えるのは適切ではありません。

日本の長期金利が上昇すれば、他の条件が同じであれば日米金利差を縮小させ、円を支える方向に働く可能性もあるからです。

現在起きているのは、より複雑な相互作用です。

財政拡張→ 財政規律への懸念→ 国債売り・長期金利上昇

一方では、

財政・金融政策への思惑→ 円安圧力→ 輸入物価上昇→ インフレ圧力

そして、

インフレの長期化→ 日銀の追加利上げ観測→ 金利・為替市場へのさらなる影響

という複数の経路が同時に動いています。

『東洋経済』は、財政規律と積極財政のバランスを、険しい山の稜線を進むような難しい政策運営として捉えています。

どちらか一方に大きく傾けば、別のリスクが顕在化する可能性があるからです。

財政規律を重視しすぎれば、景気を冷やし、成長の芽を摘む恐れがあります。

反対に、財政拡張に傾きすぎれば、財政への信認低下、長期金利の上昇、円安やインフレといったリスクを高めかねません。

求められているのは、その狭い稜線の上でバランスを保つことなのです。



そして、この問題は企業にも直接影響します。

円安は、大企業、とりわけ海外売上高の大きい輸出企業にとっては追い風になる場合があります。海外で得た利益を円換算した際の金額が膨らむほか、価格競争力の面で有利になるケースもあります。

しかし、輸入への依存度が高く、原材料費などの上昇分を販売価格へ十分に転嫁できない中小企業にとって、円安は深刻な逆風となります。

『週刊ダイヤモンド』も、円安によって企業間の明暗が分かれる「円安格差」に注目しています。

東京商工リサーチの調査によると、2026年上半期の円安関連倒産は45件に達し、前年同期比32.3%増となりました。

これは同社が2022年に集計を開始して以来、上半期として過去最多です。

同じ「円安」であっても、その影響はすべての企業に等しく及ぶわけではありません。

海外で稼ぐ力を持つ企業には利益を押し上げる要因となる一方、輸入コストを価格に転嫁できない企業には、経営そのものを揺るがすリスクとなる。

この格差こそが、歴史的な円安のもう一つの側面なのです。



4.世界の投資機関が見る2026年後半の日本経済

世界の主要投資機関や市場関係者の見方を総合すると、2026年後半の日本経済は、好材料とリスク要因が交錯する展開となりそうです。


プラス要因

日本銀行は2026年6月、政策金利を1.0%程度へ引き上げました。これは約31年ぶりの高水準です。

物価上昇が持続し、賃金と物価の好循環が維持されれば、2026年後半に追加利上げが行われる可能性も意識されています。

企業収益については、円安による輸出企業や海外売上比率の高い企業への収益押し上げ効果が、引き続き一部企業の業績を支える要因となっています。

一方で、金利の正常化が進むことは、銀行など一部の金融機関にとって収益環境の改善につながる可能性もあります。


リスク要因

最大の下振れリスクの一つが、米国経済です。

米国経済が明確に減速すれば、世界的な需要の縮小を通じて、日本の輸出企業や製造業にも影響が及ぶ可能性があります。

次に警戒すべきは、中東情勢とエネルギー価格です。

イランを含む中東情勢の緊張が原油価格を押し上げれば、エネルギー輸入への依存度が高い日本では、貿易収支の悪化や企業コストの上昇、さらには国内インフレの再加速につながる可能性があります。

そして、もう一つの重要なリスクが財政への信認です。

市場が日本の財政運営に対する警戒をさらに強めれば、国債への売り圧力が高まり、長期金利が一段と上昇する可能性があります。

長期金利の上昇は、企業や家計の借入コストだけでなく、国債残高の大きい日本政府にとっても、中長期的に利払い費を押し上げる要因となります。

2026年後半は、単純な「円安=株高」「利上げ=円高」という図式では捉えにくい局面になりそうです。

5.引退を目前にした中小企業経営者への具体的な提言

ここで、最も重要な問題に目を向けてみましょう。

日本で中小企業を経営し、引退を目前にしている経営者は、今、何をすべきなのでしょうか。

第一に、自社に「価格転嫁力」があるかを冷静に見極める

原材料の多くを輸入に依存しているにもかかわらず、コスト上昇分を販売価格に十分転嫁できないのであれば、円安が続くほど収益が圧迫される可能性があります。

東京商工リサーチの調査からも、輸入コストの上昇が中小・零細企業の経営を圧迫している状況がうかがえます。

重要なのは、

「売上があるか」ではなく、「コスト上昇後も利益を残せるか」

という視点です。

十分な価格転嫁力がなく、今後も改善が難しいのであれば、事業継続だけにこだわらず、縮小、事業譲渡、M&A、廃業などを含めた「出口戦略」を真剣に検討する時期かもしれません。

第二に、「もったいない」という気持ちだけで無理に事業を続けない

長年、自ら育ててきた会社であれば、手放すことに抵抗を感じるのは当然です。

しかし、中小企業を取り巻く環境は大きく変化しています。

円安による仕入れコストの上昇、人件費の増加、人手不足、金利上昇、そして後継者不足。

こうした問題が同時に進むなか、過去と同じ経営方法を続けるだけでは対応できない企業も増えています。

引退後の生活のために蓄えてきた個人資産まで事業につぎ込み、すべてを失ってから撤退する必要はありません。

まだ選択肢が残されている段階で、冷静に出口を選ぶことも、経営者として重要な決断です。



第三に、事業を続けるなら「三つの備え」を

① 手元資金を厚くする

金利上昇局面では、企業の資金調達コストも高くなります。

急激な為替変動、金利上昇、原材料価格の高騰などに対応できるよう、自社の運転資金と資金繰りを改めて点検し、十分なキャッシュバッファーを確保しておくことが重要です。

② 外貨建て債務と為替リスクを点検する

ドルなどの外貨建て借入がある場合、円安が進めば円換算した返済負担は膨らみます。

また、借入だけでなく、輸入代金など将来の外貨支払いについても為替変動の影響を受けます。

自社の為替エクスポージャーを把握したうえで、必要に応じて金融機関などと相談し、為替予約を含む適切なヘッジ手段を検討することが重要です。

③ DX・省力化投資を加速する

人手不足が構造的な問題となっている現在、省力化投資は単なるコスト削減策ではありません。

デジタル化、自動化、AIの活用などを通じて、少ない人員でも生産性を維持・向上できる経営体質へ転換できるかどうかが、中小企業の競争力を左右します。


第四に、引退を決めたなら「資産の分散」を改めて考える

事業から引退すると、経営者は「会社を成長させる人」から「自らの資産を守り、計画的に使う人」へと立場が変わります。

その際に重要になるのが、資産全体の分散です。

歴史的な円安は、資産を特定の通貨だけで保有することにもリスクがあることを改めて示しました。

ただし、これは「円安だからドルを買えばよい」という意味ではありません。

外貨建て資産には為替変動リスクがあり、海外債券にも金利変動や信用リスクがあります。

年齢、引退後に必要な生活資金、年金収入、保有資産、投資期間、リスク許容度などを踏まえたうえで、円預金、国内外の債券や株式などをどのように組み合わせるかを考える必要があります。

目的は為替を予想して利益を得ることではなく、


一つの通貨、一つの市場、一つの資産にリスクを集中させないこと。

これが、引退後の資産管理における基本的な考え方です。

これから引退を迎える経営者にとって重要なのは、会社を守ることだけではありません。

引退後の自分と家族の生活基盤を、いかに守るか。

経営者から資産生活者へと立場が変わるからこそ、資産の持ち方そのものを見直す必要があります。


おわりに――「続けること」だけが正解ではない

2026年の日本経済は、まさに歴史的な岐路に立っています。

歴史的な円安、約30年ぶりとなる日米協調介入、高市政権が掲げる積極財政、そして金利上昇とインフレ圧力――。

これらの要因が複雑に絡み合い、単純な正解を見つけることが難しい局面を生み出しています。

引退を目前にした中小企業経営者に伝えたいことは、一つです。

「もったいない」という気持ちを、最大の敵にしないこと。

自社の収益力、価格転嫁力、資金繰り、後継者の有無、そして引退後に必要となる個人資産を冷静に見つめ、現実と向き合ったうえで、自分にとって最も合理的な選択をしてください。

それは、事業を続けることかもしれません。

経営戦略を大きく転換することかもしれません。

事業承継やM&Aによって、次の世代へ会社を引き継ぐことかもしれません。

あるいは、まだ余力があるうちに、「きれいに幕を引く」ことかもしれません。

財政運営と同じように、企業経営にも絶対的な正解はありません。

守ることに固執しすぎれば、失うものが増えることがあります。

しかし、早すぎる撤退によって、本来残せたはずの企業価値を失うこともあります。


だからこそ必要なのは、

守るべきものと、変えるべきもの、そして手放すべきもの。その境界を冷静に見極めること。

それこそが、時代の岐路に立つ経営者に、いま最も求められている判断なのではないでしょうか。




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