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TOGO NOW国内旅行シリーズ

  • 執筆者の写真: IKIGAI旅行者
    IKIGAI旅行者
  • 2022年10月19日
  • 読了時間: 7分

更新日:7月1日


冬湯紀行

四国・九州・北海道で、数日滞在したい五つの温泉郷

2022年10月19日


冬は、温泉の季節である。

気温が一気に下がり、北風が吹き始めると、身体のどこかで静かにスイッチが入る。熱い湯への渇望、湯けむりへの誘い、そして一面の雪を眺めながら、湯船に身を沈めたいという思いである。


せっかくの冬の贈り物を、日帰りで慌ただしく済ませてしまうのは惜しい。旅を本当に知る人は、気に入った温泉郷を選び、数日間滞在する。観光地を急いで巡ることも、写真を撮るために移動を重ねることもしない。ただ湯に浸かり、食事をし、散歩をし、また湯に戻る。身体は湯の中でゆっくりとほどけ、時間は湯けむりの中で静かに流れていく。



今回は、四国、九州、北海道から、冬に小さく滞在したい五つの温泉地を選んだ。千年の歴史を持つ湯、深山に隠れた秘湯、湖と山の絶景を抱く湯宿。それぞれに異なる個性を持ちながら、共通しているのは、旅人を数日間引き留めるだけの理由があることだ。



1. 四国・道後温泉

千年の古湯、文学と伝説が息づくやさしい湯の町

アクセス

道後温泉は、四国・愛媛県松山市に位置する。アクセスの良さも大きな魅力の一つだ。松山空港からリムジンバスで約30分、道後温泉駅に到着する。松山市内からは伊予鉄道城南線の市内電車で「道後温泉駅」へ。駅から温泉街の中心部までは徒歩約5分である。

移動に時間をかけすぎたくない旅行者にとって、道後温泉は四国で最も訪れやすい温泉郷の一つといえる。


泉質

道後温泉は、開湯から三千年以上の歴史を持つと伝えられる日本屈指の古湯である。古典『万葉集』にも登場し、「日本最古の湯」として知られてきた。

泉質は単純温泉。湯あたりが柔らかく、神経痛や筋肉痛への効能が期待されるほか、美肌の湯としても名高い。強い鉱物臭を持つ温泉とは異なり、道後の湯は穏やかで癖が少なく、長く浸かっていても心地よい。そのため、古くから皇室にも親しまれてきた湯治の地である。


泊まりたい宿

道後温泉を代表する宿といえば、「道後温泉 ふなや」である。創業は1627年。江戸時代から続く老舗旅館だ。

客室は全58室。和室、和洋室、洋室、数寄屋造りの客室など、多彩なタイプを備えている。さらに魅力的なのは、その深い歴史性である。文豪・夏目漱石や俳人・正岡子規もこの宿に滞在したと伝えられ、館内には今も彼らにまつわる歴史の痕跡が残る。

宿泊することは、百年前の文学の記憶と静かに向き合う時間でもある。

余裕があれば、露天風呂付きの客室を選びたい。自分だけの湯に身を沈めながら、四国の冬夜の静けさを味わうことができる。



物語と文学

道後温泉と文学の結びつきは深い。夏目漱石は1895年前後、松山で英語教師として暮らしていた時期に、道後温泉本館をたびたび訪れた。入浴後、本館三階の部屋で茶を飲み、休息を取ったという。

その経験は、のちに代表作『坊っちゃん』へと昇華され、道後温泉は日本文学の聖地の一つとなった。現在も道後温泉本館三階北西側の部屋は「坊っちゃんの間」と呼ばれている。

また、道後温泉本館の趣ある木造建築は、宮崎駿監督のアニメーション映画『千と千尋の神隠し』に登場する「油屋」のモデルの一つともいわれる。文学とアニメーション、二つの想像力を宿す温泉地。それが道後温泉の唯一無二の魅力である。


食の楽しみ

道後温泉を訪れたら、愛媛名物の「鯛めし」は外せない。

鯛めしには二つのスタイルがある。松山風は、鯛を丸ごと米と一緒に土鍋で炊き込み、魚の旨味を米に染み込ませるもの。宇和島風は、新鮮な鯛の刺身を卵黄と特製醤油に絡め、温かいご飯にのせて味わうものだ。

どちらにも、瀬戸内海の豊かな味覚が凝縮されている。湯上がりに浴衣姿で温泉街を歩き、坊っちゃん団子を買う。あるいは鯛めし専門店に入る。そんな何気ない時間こそ、道後温泉らしい贅沢である。


冬に小住したい理由

冬の道後温泉は、観光シーズンの喧騒が少し落ち着き、温泉本館の灯りが冷たい空気の中でいっそう温かく見える。

朝は本館で「神の湯」に入り、午後には「霊の湯」に浸かる。その合間に温泉街を歩き、足湯に腰を下ろして人の流れを眺める。そんな日々なら、三日滞在しても決して長すぎることはない。



2. 九州・由布院温泉

山岳美と文芸の空気が重なる、上質な湯の里


アクセス

由布院温泉は、九州・大分県を代表する温泉地である。福岡・博多駅からJR特急「ゆふいんの森」に乗れば、約2時間10分で由布院駅に到着する。

この観光列車そのものが、旅の始まりにふさわしい体験だ。筑後平野や山あいの渓谷を抜ける車窓は美しく、目的地に着く前から旅の気分を高めてくれる。大分空港や熊本方面からのバスもあり、交通手段は比較的多い。


泉質

由布院温泉の泉質は、無色透明の単純温泉。湯ざわりは柔らかく、天然の保湿成分を含み、疲労回復にも向いている。特に女性に人気が高く、「美人の湯」として知られる。

源泉温度が適度で、過度に加水する必要が少ない点も魅力である。入浴後は肌がなめらかに感じられる。

由布院は由布岳の麓に広がる温泉地で、多くの旅館の露天風呂からは「豊後富士」とも呼ばれる美しい山容を望むことができる。冬の朝、薄く雪をまとった由布岳を湯けむり越しに眺める時間は、まさに絶景である。


泊まりたい宿

由布院には高級旅館から小さな民宿まで幅広い宿泊施設が揃う。その中でも、由布院らしい究極のもてなしを味わうなら「由布院 玉の湯」は特別な存在だ。

敷地は1万平方メートルを超えるが、客室はわずか15室。すべて離れ形式で、十分なプライバシーと静けさが確保されている。客室は自然光を美しく取り入れる設計で、滞在そのものが心を整える時間になる。

源泉は100%かけ流し。大浴場と露天風呂では、由布院の湯をそのまま堪能できる。

もう一つ注目したいのが「山荘 無量塔」である。由布院駅周辺の賑わいから少し離れた山あいに位置し、静けさと洗練された空間設計で知られる。数日間、本当に日常から離れたい旅人にふさわしい宿である。


物語と空気感

由布院温泉には、道後温泉のように明確な文学的伝説があるわけではない。しかし長年にわたり、国内外の著名人、芸術家、文化人が静かに訪れる避暑地・隠れ家として愛されてきた。

俳優や作家が別荘を構え、時折この地に滞在するという話も少なくない。由布院の魅力は、誰が訪れたかではなく、訪れた人それぞれが自分だけの静けさを見つけられることにある。

その控えめな吸引力こそ、由布院という湯の里の品格である。


食の楽しみ

由布院の食は、地元食材を中心に成り立っている。大分県が誇る「豊後牛」は、日本を代表する和牛の一つ。脂の入り方が美しく、肉質はやわらかい。

地元で知られる「由布まぶし 心」では、豊後牛、由布地鶏、うなぎの三種類の釜飯を楽しむことができる。注文を受けてから土鍋で炊き上げる一杯は、寒い季節にしみじみと温かい。冬にぜひ味わいたいのが地鶏鍋だ。大分県産の冠地どりを使い、ほどよい弾力と旨味のある肉に、地元の新鮮な野菜を合わせる。

湯気の立つ鍋を一口味わえば、身体の芯から温まる。湯の坪街道にはスイーツ店やカフェも多く、湯上がりの散策にも向いている。


冬に小住したい理由

冬の由布院は、観光客がやや少なくなり、町全体に静けさが戻る。金鱗湖は朝霧に包まれ、由布岳の雪化粧が湖面に映る。その光景は、思わず息をのむほど美しい。

旅館に二、三泊し、日ごとに違うカフェを訪れ、湯の坪街道の工芸店をのぞき、宿に戻って湯に浸かる。そして夜は豊後牛の懐石料理を楽しむ。これこそが、由布院を味わう正しい時間の使い方である。



前編の終わりに


道後温泉には三千年の歴史が息づき、由布院温泉には雄大な自然と洗練された文化があります。

しかし、日本の冬を彩る名湯は、まだまだこれだけではありません。

後編では、秘湯文化の象徴ともいえる熊本・黒川温泉、多彩な泉質で知られる北海道・登別温泉、そして湖と山が織りなす絶景が広がる洞爺湖温泉をご紹介します。

それぞれ異なる魅力を持つ三つの温泉地で、冬だからこそ味わえる特別な滞在をお楽しみください。

後編へ続く。

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